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一人ひとりの「働きたい」を叶えるために。リクルートが「テレワーク派遣」普及に取り組むわけ

派遣スタッフが在宅で業務を行う「テレワーク派遣」。新型コロナウイルスの感染拡大によって急速に広がったものの、それ以前はなかなか普及が進まず、導入する企業は全体の1%を下回っていました。派遣テレワークの実現・普及までには、どのような経緯があったのか。“一人ひとりの「働きたい」という思いに答えたい”と、コロナ禍前からテレワーク派遣という働き方を後押ししてきた株式会社リクルートスタッフィング スマートワーク推進室・室長の平田朗子さんに聞きました。

●株式会社リクルートスタッフィング スマートワーク推進室・室長 平田朗子さん
1985年、株式会社リクルート入社。2004年に株式会社リクルートスタッフィングに転籍し、首都圏における人材派遣の営業マネジャー、営業部長などを歴任。その後、事務未経験を対象にした無期雇用派遣「キャリアウィンク」事業責任者、多様な働き方を推進している「エンゲージメント推進部」部長を経て、従業員の働きやすさと働きがい向上を目指し、テレワーク促進などを手がける、スマートワーク推進室の室長に着任。

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株式会社リクルートスタッフィング
スマートワーク推進室・室長 平田朗子さん

コロナ禍以前も、派遣スタッフからテレワークの要望はあったが……

──コロナ禍において「テレワーク派遣」が注目されているとのことですが、どのくらい導入が進んでいるのでしょうか。

平田:現在、全国で約半数のスタッフが、テレワークを活用しながら就業していただいています(注:2021年8月現在、月に1回以上テレワーク割合)。一方で、コロナ禍以前は派遣スタッフのテレワークを導入している企業がほとんどなくて、導入割合は全体のたった1%でした。それが2020年に入り、コロナの感染拡大によって50%以上と急速に対応が進んだ形です。

──なぜ、コロナ禍前は派遣スタッフのテレワーク導入が進まなかったのでしょうか。

平田:「テレワークをしたい」という派遣スタッフの方は、すごく多かったんです。なぜならば、派遣という働き方を選んだ人の中には、時間と場所の制約がある方が多くいらっしゃるからです。よって、コロナ前から、育児や介護、通院などの理由で、週に何度かはどうしても早く帰らなければならないといった個別の相談をたくさんいただいていました。

こうした声に応えたいと考え、2018年に先輩社員と協力して、社内の新規事業提案制度にテレワーク派遣事業の提案をしました。リクルートとして世の中に働きかけるべき案件だと思ったからです。テレワークが進めば、もっと多くの方が仕事を辞めずに済むし、新しい仕事も見つかりやすくなる。さまざまな事情がある中で、一人ひとりが心に抱えている「働きたい」という思いに、もっと寄り添っていけるのではないかと考えました。

ところが、多くの企業ではインフラなどの問題でテレワーク自体の導入が進んでいない状況で、テレワーク派遣の取り組みはなかなかうまくいかず……。しばらくは、テレワークを希望する方がいたら、営業が個別に企業側に相談して対応するという形を続けていました。

こうした中、2020年にコロナの感染拡大が深刻になり、「従業員だけでなく派遣スタッフにもテレワークができるようにしたい」という企業からの問い合わせが殺到する状況に。コロナ禍前から地道に準備してきたことが奏功し、スムーズに導入を進めることができました。

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一人ひとりの働く選択肢を広げるために

──派遣スタッフの方からは、どのような声がありましたか。

平田:「テレワークのおかげで離職しなくて済んだ」「仕事を探すときの選択肢が増えた」「通勤時間を有効に使える」といった、たくさんの声をいただきました。

派遣先のオフィス移転で通勤時間が長くなり、保育園のお迎えに間に合わなくなったので仕事を辞めなくてはならないと悩んでいた方は、テレワークを組み合わせることで働き続けることができたそうです。また、お父さまの介護をされていて、デイサービスに連れていくために仕事を休まないとならなかった方は、テレワークをすることで休まずに3時間だけ抜けて仕事に戻ることができるようになりました。

他にも、あるワーキングマザーの方は、お子さんの習い事の送迎のため仕事ができない日があり週4日勤務だったのが、テレワークで働けば通勤時間がなくなったことで、お子さんの送迎ができるようになり、週5日働けるようになったといいます。

このように、「働きたい」という思いを持つ方々の可能性を広げること。それが私たちのやるべきことだと思っています。

──テレワーク派遣を進める上で、大変なことはありましたか。

平田:今までやったことがないことをやることに対する“漠然とした不安”ですね。取引先の企業に「派遣スタッフをテレワークできるようにしてください」とお願いしても、そもそも事例が少なく未知の領域なので、すぐに踏み切れないという回答が多かったんです。

そこで、皆さんの不安や疑問に一つずつ丁寧に答えていきました。「法律以外の問題は、こうやってクリアすればいいと思います」「他社ではこんな事例がありますよ」というように説明を重ね、不安を解消していただくことが最も重要だと考えたのです。もちろん丁寧にお話ししても、「やっぱり不安」「実際に進めるイメージが湧かない」というご意見もありました。その場合は、どうやったら実現できるかを一緒に考え、具体的にイメージしていただくことに注力しましたね。

──リクルートの役割はどこにあると考えていますか。

平田:派遣スタッフ一人ひとりの声を聞き、派遣先企業につないでいくこと、逆も然り、だと思います。派遣会社は、派遣スタッフ・派遣先企業の間に入り、日々のお仕事に伴走し続けることが仕事なので、現場で起こっている一人ひとりの現象を具体的に捉えやすいんですね。ある方は、闘病中で仕事を辞めなければならないと悩んでいるけれど、テレワークができれば週に3日間仕事ができる。別の方は、介護で週に1回だけ早く帰らなければならなくなって困っている。そうした出来事が現場ではたくさん起こっています。1件1件は“点”に見えるかもしれませんが、それらを何らかの“兆し”と捉えると、実は大きな“面”の課題が見えてきます。

そうやって見つけた課題に対して、営業部門、企画部門など各部門が連携し、リクルート全体として知見を集め、みんなで解決策を導き出していく。そうやって、社会の中に新しい価値を創リ出していく。それが私たちの役割ではないかと思います。

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自分にしかできないこと、自分が輝ける場所は必ずある

──今回、平田さんのお話を伺っていて、すごくアグレッシブな方だという印象を受けたのですが、仕事へ向かう原動力は何でしょうか。

平田:私は高校を卒業後、18歳でリクルートに入社しました。最初に、情報システム部に配属されたのですが、全然向いていなかったんです。まさに落ちこぼれでした。自分は世の中で役に立てない人間なんじゃないかと、かなり絶望しました。結局、2年半後に異動願いを出し、営業部門に移りました。営業が向いているとは全く思っていなくて、正直いって今いる場所から逃げたかっただけの異動でしたが、意外にも向いており、楽しかったし、成果も出すことができました。

そんなふうに20歳前後の早い時期に天国と地獄を経験したというか、人には強みと弱みがあることを身をもって学びました。その経験から、「じゃあ、自分の強みとは何だろう。どんなことで世の中に貢献できるんだろう」と、常に意識するようになりました。もちろん、答えはすぐには見いだせないわけですが、意識することによりだんだん見えてきて、今は、一つひとつの事象から兆しや課題を見いだす課題発見力、周囲を巻き込み、新しい価値をつくっていく推進力、が強みだと考えています。そして輝けない場所を経験したからこそ、自分が貢献できる場所で頑張らねば、課題発見と推進力で世の中に貢献するんだ、という思いがあります。

また、そもそも私は家の経済的事情で大学進学を断念せざるを得なかったという自身の経験から、世の中の平等性や負の解消に非常に関心があり、事情があり制約が多い人たちがもっと力を発揮できる環境をつくっていきたい、という強い思いがあって、それは今の仕事の原動力になっていると思います。

──平田さんがこれから挑戦したいことは何ですか。

平田:「働く」ということを体系的に学びたくて、2018年に大学院に入学しました。そこで、ビジネス現場で起こっているさまざまな課題について、既に多くの研究がされていることに驚きました。人的資源管理、組織行動、キャリアカウンセリングなど、働くことに関するさまざまなテーマが既に研究され解明されていました。

ところが、そういった研究は一般にはあまり知られていなくて、せっかくの知見がうまくビジネスの現場で活用されていなかったりする。もっとそういうことを知れば解決できることがたくさんあるように思うので、自身が学んだ知識を活用していくことで、微力ながら広めていければと考えています。

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──働くことについて悩んでいる方や働き方を模索されている人に向けて、メッセージをお願いします。

平田:誰にでも、自分にしかできない世の中に役立てることが必ずあります。輝ける場所を探すことを諦めないでください。そして、ただ待つのではなくて、会社で異動希望を出してみるとか、プライベートで何か勉強してみるとか、オンラインセミナーに参加して普段会わないような人の話を聞いてみるとか、なんでもいいので、一歩踏み出す行動をしていってほしいです。動くことで何らかの手がかりが見えると思いますし、そんな姿を見て周囲に協力してくれる人も現れるはずです。振り返れば、私自身が今まで働く中で、挫折を繰り返しながらも、自分が動くことや周囲からの助けで、ここまで働いてくることができました。だから心からそう思います。

※肩書、担当業務などは取材当時(2021年8月)のものです。

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