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人や地域に寄り添う「やさしいDX」を実現する──鹿児島で事業を展開する藤社長のお話

1974年、鹿児島県初の産業観光施設としてオープンした「奄美の里」。奄美大島発祥の絹織物・大島紬を伝える美術館、四季折々の景色が楽しめる日本庭園で行われるウェディングの他、奄美の郷土料理を堪能できるレストランやホテルなど、さまざまな事業を展開されています。

「原点である大島紬、そして奄美の伝統文化を継承していきたい」と語る、アーダンリゾート株式会社の藤陽一社長が着手した「人や地域にやさしいデジタル・トランスフォーメーション(以下、DX)」とは、どのようなものなのでしょうか。リクルートの下村がお話を聞きました。

●アーダンリゾート株式会社代表取締役社長 藤陽一さん
鹿児島県鹿児島市出身。東京の大学を卒業後、ITサービス企業に就職し、金融系のシステムエンジニアとして銀行のシステム開発などに携わる。2007年に鹿児島に戻り、家業である藤絹織物株式会社に入社。2019年10月、大島紬の製造を事業とする藤絹織物株式会社と、婚礼・飲食サービス、ホテルなどを展開するアーダンリゾート株式会社の代表取締役に就任。

●聞き手:リクルート ゼクシィブライダル事業本部 営業統括部 下村里佐

アパレル会社で新店舗スタッフの育成や店舗運営に従事。その後、結婚・出産を経て、2008年にリクルート入社。鹿児島3年半、熊本3年、鹿児島に戻り、2020年4月から、宮崎・鹿児島の営業チームのグループマネージャーに。

原点は、奄美大島の原風景と大島紬を伝えることだった

下村:アーダンリゾート株式会社が運営する「奄美の里」は、歴史の長い事業ですね。

藤:発祥は1929年です。私の祖父・藤都喜ヱ門(ふじ・ときえもん)が、奄美大島の名瀬市(現在の奄美市)で大島紬を製造する藤絹織物株式会社を創業しました。1944年に戦争で奄美大島から鹿児島本土に渡り、その後、1974年に大島紬の製造工程を見学できる工場として「奄美の里」をオープンしたのです。私は3代目になりますね。

下村:藤社長は、もともとは東京でSEの仕事をされていたそうですね。なぜ、「奄美の里」を継ごうと考えたのでしょうか。

藤:祖父は「奄美大島の景色や文化を鹿児島本土に引き寄せたい」という想いから、奄美の原風景を再現した日本庭園を造り、鹿児島初の産業観光施設として多くの観光客が訪れるようになったそうです。原点である大島紬も、当時は飛ぶように売れていたと聞いています。

ところが、世の中では和装文化が少しずつ下火になってきて、団体旅行の数も徐々に減ってきてしまいました。13年前、当時の社長である父から「そろそろ鹿児島に帰ってきて、家業を手伝わないか」と声を掛けられまして、1年ほど考えてからこちらに戻ってきたんです。

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泥染めの黒地を基調とした大島紬(アーダンリゾート株式会社提供)

下村:異業種から転身して、ここまで事業を拡大するまでは大変な道のりだったと思います。何から着手されましたか。

藤:当時、ここは大島紬の見学工場として、県外からの団体客が多くいらっしゃる場所だったんですね。一方で地元の方々にとっては、あまりなじみのない場所でした。もっともっと地元の皆様にも知ってほしい。そのために何をすればいいのかと考え始めたんです。

まずは、とにかくがむしゃらに飛び込み営業をしましたね。最初はあまり深く考えず、県内の法人団体客を増やそうとしていました。でも、営業先で「『奄美の里』というと、大島紬を見学する団体さんが来る場所だよね。なぜうちの会社に?」という反応ばかりで、ほとんど相手にされなかったんですよ。
なぜだろうと考えていたところ、これはソフト面とハード面の両方において、我々のコンセプトが明確になっていないことが原因ではないかと気付きました。だから、お客様にとっては何の施設か分からないというイメージが強かったんだと。

そこで原点に立ち返りました。我々の強みは、大島紬と日本庭園。このイメージに統一しようと決めたのです。2013年には施設を大規模リニューアルしました。同時に従業員の意識改革や身だしなみの改善も行い、事業全体にコンセプトを反映させていきました。おかげさまで、県内のお客様にも認知していただけるようになったと思います。

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「道の島奄美」を象徴する日本庭園「道の島庭園」
(アーダンリゾート株式会社提供)

会社の原点やアイデンティティを深く知るということ

藤:下村さんと初めてお会いしたのは、2008年頃でしたよね。

下村:はい、今はありがたいことに信頼していただいていますが、最初はもう大失敗で。覚えていらっしゃいますか?

藤:実は手帳に残っているんです。担当の方と「奄美の里」に来られて……。

下村:そうです。当時の担当者が「奄美の里」でウェディング? という大変に失礼なお話をしてしまって……。同じタイミングで、別の会社さんが御社の歴史や思いをすごく勉強されて、受注されていました。その後、私が改めてご連絡させていただいたのですが、門前払いされることが続きました。でも、とにかく連絡を取り続け、次にお会いできたのが2カ月後でした。

藤:最初の印象は正直良くなかったです(笑)。しかし下村さんが本当に粘り強くやって来て、一生懸命藤絹織物のことを勉強しようとしてくれました。そうした中で「ゼクシィ」に最初に載せたのは、1年後の2009年だったと思います。

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大島紬の製造の様子(アーダンリゾート株式会社提供)

下村:私は藤社長とのお話を通して、事業に至った経緯を知らずして発言する自分の無責任さに初めて気付かされたんです。当時は入社したばかりで、先ほどの会社の方との差は何だろうと、しつこくお聞きしたんですよね(笑)。会社の歴史や、つないできた事業の経緯が、今ここで仕事をしている人たちにとってとても大切なことなんだと、目から鱗が落ちました。それを教えていただいた案件だったので、ぜひ想いをカタチにするお手伝いがしたいと粘り強く提案を行いました。

藤:そうだったんですね。私も2度目にお会いしてから下村さんの人柄を知り、一生懸命に話を聞いてくれる人だということが分かってきました。「一緒にサービスを創っていきましょう」というスタンスで相談に乗っていただけるので、今では心強さを感じています。

DXの実現に向け、社員と根気強く対話を重ねる

下村:ありがとうございます! その後「ゼクシィnet」などの媒体を活用いただいていますが、ITツールを実装していく過程で、苦労された点はありますか。

藤:DXには力を入れており、実は今年の年初式でも「DXに取り組んでいく」という想いを社員に向けて話しました。ITツールに関しては、他社のサービスも含めていくつか導入しています。リクルートのサービスでは、2014年からゼクシィの「zebra(ゼブラ)*」、それから運営するホテル「シルクイン鹿児島」は、2008年から「じゃらんnet」を契約しています。その他、Airレジや、レストラン事業でも御社のサービスを利用させてもらっています。

以前は、レストランの予約は手書きの台帳を使ったり、ブライダル事業の業績データはエクセルで管理したりしていました。業務をより効率化しようとITツールを導入したのですが、社内から反発があったんです。「今までのやり方を変えたくない」「仕事が増えるんじゃないですか」という声が上がりました。こういった抵抗勢力は非常に強く、今も少なからずあります。社員の年齢層が比較的高いことも影響しているかもしれません。

※zebra(ゼブラ):Zexy Bridal Real Assistant。「ゼクシィnet」が無料で提供する、結婚式場のための顧客管理・掲載管理・予約対応管理機能を備えた業務支援システムのこと。

下村:藤社長はどのように対応されましたか。

藤:とにかく丁寧に説明しました。反発が出るということは、メリットを伝えきれていないんだなと思ったからです。

デジタルの世界は、中にはどうしてもついていけないところがある人もいると思うんです。でも、ついていけない人たちを排除するのではなく、きちんと説明をしながら歩幅を合わせていく。経営者としては、企業理念や価値観を社内全員で共有し、「目的に向かってスムーズに進んでいくために、こういうツールを活用するんだ」というメッセージを根気強く発信し続けていきたいと思っています。

下村:新システムを導入する際に社内から反対の声が上がるケースは、他社さんでもよく見受けられます。やはり根気強く説明しながら、効果を実感していただくことが必要ですよね。一方で、メリットはありましたか。

藤:集客効果はもちろんですが、お客様の動向や趣味趣向を把握してサービスに生かせる点は、とてもありがたいですね。

また、今感じている大きなメリットは、お客様から感想をいただいて、それに対するお返事ができるようになった点です。従来も自社でアンケートを実施していましたが、返信する術がなかったんです。これが、ITツールによって双方向のコミュニケーションができるようになりました。いつも手紙を書くような気持ちで返信しています。

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下村:一つひとつの声に丁寧に返信されているんですね。DXといっても全てをITに頼るのではなく、藤社長のように、必要なところは自分たちの手で行う。これが、お客様に喜んでいただく秘訣なのではないかと思います。

人や地域に寄り添う「やさしいDX」を

下村:藤社長は、DXやITツールがブライダル業界にどのような影響を与えると思いますか。

藤:お客様の趣味趣向に合わせた情報発信やご提案ができるようになると思います。さらには、お客様の情報をITツールによって管理・活用することで、ブライダルだけではなく、その後も寄り添ったお付き合いができるようになるかもしれません。

DXを進めることで業務を効率化し、従業員にゆとりが生まれて、よりよい接客サービスにつながり、それを管理者が適正に評価して、ますます従業員のエンゲージメントも高まっていくような好循環が生み出されるといいですよね。

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下村:本当にそうですね。私は全部がデジタル化されなくてもいいと思っています。地域の人たちにとって使いやすく、地域が活性化するために、本当に必要なツールだけを選択して使える「やさしいDX」を提案できるパートナーでありたいと思います。

最後に、藤社長が今後、挑戦していきたいことについて教えていただけますか。

藤:近年、結婚式の実施数も婚姻組数も減り続けています。その中で、やはり結婚式を挙げたいと思う人たちをもっと増やしていきたいと思いますね。コロナ禍においてオンライン化が進んだ今だからこそ、人と人とのつながりを深めていくための企業でありたいです。

それから、原点が大島紬ということもあって、伝統文化の啓蒙活動にも積極的に取り組んでいきたいです。着物文化のみならず、奄美大島の文化、人生の節目を祝う婚礼の文化などを継承して伝えていく役割が、我々にはあるのではないかと思っています。

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「奄美の里サウスヴィラガーデン」披露宴会場(アーダンリゾート株式会社提供)

下村:原点である藤絹織物の創業時から大事にされている「紡ぐ」ということが、ブライダル事業での「人とのつながり」と深くつながっていると感じています。藤社長の思いが一人ひとりのお客様に届くようにお手伝いしていきたいです。特に地方では、婚礼が画一的になりがちですが、各会場の個性を生かした婚礼プランを提案して、お客様がちゃんと自分たちにマッチした婚礼に出会えるようになると、会場側もお客様ももっともっと幸せになると思うんです。

そして、藤社長がおっしゃったように「結婚っていいな」と多くの人に感じていただき、結婚式の実施率が100%になるような世界を実現したいです。もう一つ、鹿児島の魅力を県外や海外の人たちに伝える発信ができたらと思っています。

藤社長、本日はありがとうございました。

※肩書、担当業務などは取材当時(2021年3月)のものです。

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