発想の転換と思い切った改革で働きやすい環境を!――幸知会
社会福祉法人幸知会は、栃木県で1995年に5つの事業所でスタート。特別養護老人ホーム「トータスホーム」の運営や、デイサービスなどの高齢者介護事業、さらには障がい者支援まで、介護を必要とする人たちを対象にした事業を進めています。現在、従業員は160人、事業所は19カ所です。
介護業界が慢性的な人手不足に悩まされる理由
人材が定着しにくく、慢性的な人手不足に悩まされているといわれる介護業界。幸知会は、そのような業界の中にありながらも、いち早く週休3日制の導入に踏み切り、年間休日156日を実現しました。結果として、離職率は業界平均15.4%を大きく下回る1.2%程度にまで下がり、人材不足を解消。「長く働き続けられる」職場環境がつくり上げられています。
幸知会経営管理部の岩崎英幸さんによると、介護業界は、自ら志望して入ってくる人が多いのにもかかわらず、勤続し続けられない人が多いことが問題視されているといいます。そのような現象を引き起こしている最大の原因は、現場の業務量の多さにあります。
利用者の二―ズに応えようとするあまりサービスは過剰になり、それとともに業務は煩雑化、仕事の記録は紙ベースで行うなど、旧態依然とした業務の進め方は仕事の非効率性を招くばかりで、それがそのまま残業の多さにつながっています。
やりがいを持って仕事に当たっている職員が疲弊して、離職してしまう悪循環。「働きやすい環境をつくる」という意識が足りず、効率の悪い仕事をコツコツ時間をかけて行う=残業をすることが良い、という業界特有の風潮もあったといいます。
岩崎さん自身も、この業界特有の仕事の“難しさ”を経験した1人です。病院勤務などを経て幸知会に転職し、今年で入職5年目になる岩崎さん。前職では、立ち上げられたばかりの社会福祉法人の新しい特別養護老人ホームのオープニングスタッフになりましたが、40人いたスタッフは、オープンから時間が経つにつれて1人辞め、2人辞め……気が付けば残ったオープニングスタッフは岩崎さん1人だったそうです。それは、たった1年後のことでした。
そのような状況にありながらも“自分が辞めたら大変なことになる”という強い責任感と、ボランティア精神で仕事を頑張ってしまった岩崎さん。結局は、気持ちをすり減らして退職という悪循環に陥ってしまったそうです。
「今の職場では、入ったばかりなのに上司やスタッフが信頼して仕事を任せてくれます。コミュニケーションが取りやすいから、同僚や上司の気持ちが自分の中に違和感なく入ってくる……そんなシーンがたくさんありました。とても働きやすいと感じました」と語ります。
業務改善のウルトラC「10時間勤務」
業務の改善は15年ほど前から行っていたという幸知会ですが、それがすぐに新人定着や採用の好循環にはつながりませんでした。しかし、5年ほど前に実施した「10時間勤務」(8時間プラス残業ではなく、10時間の中ですべての仕事を終わらせる勤務形態)をきっかけに状況は徐々に好転。
8時間勤務とはいえ、現実にはサービス残業が多く、休みも取れず拘束時間も長かった現場が、週休3日取れるようになったといいます。
「10時間勤務」を実施するにあたり、現在取り組んでいる仕事を全部書き出した上で整理、本当に必要な業務、コアな業務を可視化しました。その上で、削れる業務を整理した結果、1日の出勤人数を減らしても、時間あたりの配置人数は増やせる=介護業務を充実させられるということが判明しました。
職員の勤務時間を10時間に延ばすことができれば、朝食の介助から夕方までと昼食前から夕食後の介助までを仕事の時間に充てることができるようになり、これまで8時間勤務の外に出て人員配置が薄くなっていた朝夕の配置人数を厚くすることが可能となったのです。
1日の総労働時間を80時間に設定した場合、これまでなら8時間×10人=80時間であったのが、10時間×8人=80時間となりました。配置人数は減らしたのに、1日の総労働時間は同じ。10時間勤務に移行することで、業務の効率化が随分と進んだことになります。
男女で育休取得率100%!
今回の働き方改革によって、現在は、早番は6時半~17時半、日勤は7時~18時、遅番は9時~20時というシフトになった他、連続勤務は2日ないし多くても3日で、2連勤または3連勤すると休暇、ということになりました。
3連休は当たり前で、4連休を月に2回取る人も出てきたそうです。人にもよりますが、2日連勤して短く休む、5日間連勤して長く休むなど、自分の働き方によってフレキシブルに休みを取ることが可能になりました。
岩崎さんによると、「土日・祝日など、カレンダー通りに休みが取れるようになったということも、非常に大きな変化」ということです。
またこうした改革は、採用面にも良い影響を与えています。10時間勤務・週休3日制の導入後、1カ月で16件ものエントリーがあったそうです。
女性は産休・育休の取得が当たり前に。職場内には託児所があり、子育て中の女性職員も、安心して仕事に打ち込めます。託児所効果で、産休後の女性の仕事復帰率は100%となりました。また、男性社員の育休取得率も上昇しており、2021年度は100%の取得率となったそうです(2021年は10人程度が取得。昨年12月に長女が生まれた岩崎さん自身も育休を取得予定)。
スタッフの「人間力」を磨け!
幸知会の「人材不足を解消」する思い切った改革は、社内コミュニケーションの活性化にも及びます。
岩崎さんによれば、普段会わない部署の人とも密にコミュニケーションを取れるようにするために、社内旅行などのイベントを活用しているのだそうです。旅行中、班を組んで行動させることで、1日の予定を話し合うなど、自然とコミュニケーションを図ることができるようになっているのです。ちなみに、社内旅行での経験は、職場に戻ってからの職場環境の改善や、コミュニケーションを取りやすい風土づくりに役に立っているということです。
※コロナ禍のため、この2年ほど社内旅行などは行われていません。
現在、幸知会は新しい人事評価システムの構築に取り組んでいますが、このシステムづくりの重要性を岩崎さんは語ります。
「介護・保育・障がい部門と、異なる部門で事業を行っているので、足並みをそろえて評価システムを構築するのは難しい。福祉業界は『数字』だけでは評価できません。そんな中でスタッフをどう評価していくのかは、大きな課題です」
介護の仕事は経験と知識、資格が必要ですが、人対人の業務である以上、全人的ケアが必要になります。そのためにはスタッフの人間力が肝要で、一人ひとりのスタッフが、人としての成長を実感できるようになっているかどうかがポイントだと言えます。
スタッフの成長は、心だけ磨いても、モノだけに満たされても成し遂げられません。「両面を追求していくことが目標です」と、岩崎さんは語っていました。
社会福祉法人幸知会の取り組みから導き出す「WORK SHIFT」のヒントは・・・『発想の転換と思い切った改革で働きやすい環境を!』でした。
働きやすい環境は、すなわち、良い介護の環境を生み出すはずです。
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