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既知の職業で未来を考えてはいけないー成長停滞を突破する鍵は環境選びと時間の使い方

破壊的変化が定常的に起こるビジネスシーンにおいて、もはや「安定」な職業は存在しない。

ITビジネスの未来を担う若手人材が、変化の担い手になるためのスキルセットとは何なのか。また、そうした人材が非連続な成長を遂げるための組織とは、どのようなものか。

かねてより破壊的変化を生き抜く人材の要件定義「BTC(ビジネス、テクノロジー、クリエイティビティ)」のトライアングルを概念として提唱してきた、Takram代表でデザインエンジニアの田川欣哉氏は、自著『イノベーション・スキルセット』で、“越境”への強い意識を持つことこそが重要だと説いている。

株式会社リクルートライフスタイル ネットビジネス本部 プロダクトディベロップメントユニット ユニット長の小川健太郎は、2012年の入社以来、IT人材の発掘・育成に注力してきた人物である。「エンジニアはただコードを書いていればいいわけではない」という方針のもと、開発組織がテクノロジー領域のみならず、ビジネス領域へと越境する牽引者となった。

本記事では、成長を遂げる人材の共通点と停滞を打破する方法、変化を起こし続けるためのマインドセットについてお話を伺った。

非線形の成長を遂げる人材は、すべからく「時間を味方につけている」

ー対談の前編では「組織単位、個人単位で“越境すること”が求められている」とお伺いしました。越境をする過程で、得意としない分野で活動するシーンも多々あると思いますが、そうした際に求められる能力とはどのようなものなのでしょうか。

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写真:田川欣哉さん (Takram代表取締役)

田川:「学習力」に尽きます。得意・不得意を問わず、どんな領域においても、現時点での能力ではなく、今後成長していく能力の方が重要だからです。

横軸を時間軸に、縦軸を実力に取ったグラフを想像してください。中長期的な視点で考えれば、現時点で縦軸のどこに点があるかよりも、現時点からどれくらいの勾配でカーブを描けるかが重要だと分かります。

勾配が急であれば、たとえ現時点で実力がなくとも、時間の経過とともに大きく成長できますよね。僕はこうした人材を「時間を味方につけている人」と表現しています。「一生懸命か」ではなく、「体系的・戦略的に急勾配の曲線を描くポジションを取れているか」で、10年後に圧倒的な差が生まれるんです。

学習力を持っている人は、「何を」「どんな順番で」「どれくらいの速度で」実行すればいいのかを構造化できています。こうした“学びのツボ”を知っていて、なおかつ好奇心が強く、コミュニケーション力がある。採用の際も、そうした視点で見極めを行なっています。

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写真:小川健太郎 (株式会社リクルートライフスタイル)

小川:環境や仕事の選び方、時間の使い方を誤ると、成長曲線の角度が鈍くなってしまいますよね。リクルートでも「成長曲線」で考えることを大事にしています。

個人によって最適解は違うので、会社として、チームとして、急勾配のカーブを描くためのアプローチは常に考えています。


ー成長曲線の角度が鈍ってしまったら、どのようにして停滞期を打破したら良いのでしょうか。

田川:私自身がTakramの若手メンバーに対して実践していることは、二つあります。一つ目は越境を促すこと、二つ目は挑戦のレベルを変えるよう促すことです。

越境とはつまり、過去に学んだ経験のない領域で、ゼロから学ぶことを意味します。ゼロベースでのスタートですから、そもそも成長幅が大きいですよね。また、過去の学びを絡めた複眼的な視点が身につき、シナジーを発揮するため、急勾配のカーブを描けるようになります。

そして「挑戦のレベルを変える」局面では、一人だけではどうしようもない壁を、人の手を借りて乗り越えることにチャレンジします。

人の成長段階を表す「守破離」という言葉があります。「守」と「離」は基本的に一人で行うものですが、「破」だけは、一人では行えないものなのだそうです。

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また、中国の故事にも「啐啄同機」という考え方があります。ヒヨコの成長にたとえられており、いわば卵の殻の中で細胞が成長し、ヒヨコの原形ができ上がっていく段階が「守」。型を守る、という意味だと思いますが、殻に守られている、とも理解できますね。そして、「離」は、殻を破った後に自力でどこかへ飛んでいくこと。いずれも、個に閉じた環境でも、取り組めることです。

しかし、どうやら「破」だけは共同作業らしいのです。卵の中のヒヨコのくちばしは柔らかいので、一人で殻を破ること——つまり「破」はできない。親鳥がタイミングを見計らい、外から殻にヒビを入れてあげる、つまり「殻を破る」ためのサポートが必要なんです。そのタイミングが重要で、破るのが早すぎると外界に耐えられないし、遅すぎると殻の中で成長が止まってしまいます。

自分が培った型から抜け出し、チャレンジのレベルを一気に上げる(“成長の停滞期”を乗り越える)瞬間において、師匠や先輩の助けが有効ということです。そして、一回殻を破ってしまうと、その後は放置してても勝手に育っていきますよね。どっちかというと、師匠や先輩は、手を離してあげたほうがいいい。

努力では越えられない壁を乗り越える、リクルート式“守破離システム”

ーつまり、連続的な成長を続けるためには、「破」をサポートする上司に巡り合う必要があるということですね。

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田川:おっしゃる通りです。ただ、これが本当に難しい。再現性を持って「殻を破るサポート」ができる人材は稀有です。「部下の停滞を打破できる上司がどの程度いるか」は、そのまま組織力に直結すると思います。
僕の印象ですが、リクルートさんはそうした人材が多いイメージです。何か秘訣はあるんですか?

小川:前提として、自ら殻を破ろうとする意識のある人材が入社してくれる文化があります。若いメンバーが事業責任者のポジションを担うことを問題視する人はいませんし、むしろ「その勢いで頑張れ」と応援する社風なので、そこに魅力を感じて入社してくれた、前のめりな人材が多いです。

また、上司が部下の“殻破り”を再現性を持ってサポートできる仕組みを用意しています。要は、マネジャーを育てる仕組みが充実しているんですね。

たとえば、各メンバーの育成方針については、所属組織すべての課長・部長が関わり、中長期的な視点で組織横断での任用や配置、ミッション設定を検討しています。こうして、メンバーの「殻破り」を全方位からサポートしています。(参考リンク:リクルートの人材開発方針


ー逆に、メンバーが自ら殻を破ることに意識的になるための仕組みはありますか?

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小川:「ミッションマネジメント」という制度で、各メンバーに対し能力開発につながるミッションを半年間毎アサインし、どれくらいの割合をかけてチャレンジするかか、目標設定を行っています。僕の担当組織では業務の数十パーセントに、チャレンジングなミッションを割り当てることにしています。“チャレンジする”ことが評価の対象になっているので、チャレンジしないしない人材は高い評価を受けることはありません。

人は「頑張ろう、努力しよう」という意思だけでは、そう簡単に変われないもの。また、自分自身で描ける成長にも、限界があります。そこで、各メンバーの個性に合わせたインセンティブを設計することで、モチベーションが高い状態で「自ら殻を破る」サポートをしています。

成長角度を上げる仕組みづくり

ー学生や若手社員の視点に立って考えてみると、「どれだけ努力をしても、描いた自分に追いつけない」という壁にぶつかることがあると思います。そうした際の対処法はありますか?

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田川:そうした悩みが出てきたら、おそらく努力の仕方を改めるタイミングなんだと思います。過去よりも早い速度で走ったとしても、目の前に壁があったら、その先には進めませんよね。ですから、やり方を変えて、壁を越える方法を検討しなければいけません。

こういった成長の壁を越える方法は世界でも山ほど研究されています。特に、経済・マネジメントを専門とする著述家のエイドリアン・スライウォツキーが提唱する「4つのA」(Awareness:気づき, Awkwardness:違和感, Achievement:達成, Assimilation:無意識化)は参考になります。

壁にぶつかるフェーズは「Awkwardness」であり、誰もが必ず通過するものです。たとえば、自転車になんとか乗れるようになり、“フラフラ漕ぎ”をしている段階だと思ってください。気を抜けば転倒してしまいますが、それでも集中して乗り続ければ、いつしか転倒せずに漕ぐことができるようになります。最終的には、無意識のうちに乗れるようにもなるでしょう。

あらゆる学習行為は、必ずこのフェーズを経由します。その事実を理解できれば、「Awkwardness」をどのように乗り越えるか、その方法を考えればよいですよね。人の力を借りるでもいいですし、本を10冊固め読みするでもいい。ビル・ゲイツのように「Think Week」を過ごしてもいいかもしれません。

ー若手社員の目線で考えると、特に「マネジャーから経営サイド」へのキャリアアップが非常に困難に思えます。そもそも打席に立つ機会がなければ、壁を越えるチャンスすらありません。「大企業は打席に立つ機会が少ない」という一般論を耳にしますが、実際はどうなのでしょうか。

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小川:まず、「大企業だから」打席に立てないわけではないと思います。企業規模による差は多少あれど、あくまで文化の話ではないでしょうか。

リクルートは、そうした機会提供には積極的な方だと思います。たとえば、新規事業提案制度「Ring」。グループを支えるサービスとなった「ゼクシィ」や「スタディサプリ」も、「Ring」から誕生したものです。

「Ring」によって誕生した新サービスで、入社1年目の社員がプロダクトマネージャーを務めているケースもありますし、もはや「Ring」を経由せず、経営陣に直談判するメンバーもいるくらいです。


田川:Takramはリクルートさんとお仕事をさせていただく機会も多く、僕自身「Ring」の審査員を務めたこともあります。やはり、社員が主体的に動ける環境づくりには秀でていますよね。若いメンバーが続々と手を挙げますし、それを否定する人もいない。

それでいて、経営陣が「なんでもいいですよ」と節操なく許容するわけではない。主体性を歓迎する分、提案内容に厳しい目は向けられますよね。

小川:そうですね。“起業家輩出企業”と表現していただくことが多いですが、全てが自由なわけではありません。ビジネスプランを提案すると、細部に至るまでチェックされ、「最後まで責任を持てるか?」と、厳しく問われます。

田川:でも、それってありがたい環境ですよね。当事者意識を持つための、必然の流れだと思います。


既知の職業で未来を考えてはいけない

ーこれまで、若い世代が成長するために必要な考え方や学習方法をお聞きしました。おふたり自身は、今後どのような人材になることを志しているのでしょうか。

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田川:「社会に変化を起こす人材を集め、育てる」ことが、自分自身のライフミッションだと思っています。今僕らが生きている当たり前の環境は、20年前、30年前には当たり前ではなかったはず。過去にいろんな人たちが、変化を起こしてきたからこそ生まれた環境です。

僕はイギリスの大学院でデザインを学びましたが、通っていた学科は、僕が入学する15年前に創設されたものでした。誰かがこの学科を用意してくれたからこそ、デザイン教育を受けることができて、今の僕が存在できています。そのことを、最近はとてもありがたく思うようになりました。

そう考えると、今度は自分自身が、未来への変化に取り組んでいかなければならないと強く感じるんです。「未来は変化の積分」なので、変化を起こせなければ未来はつくれない。変化を起こせる人材を集め、育てることで、未来に貢献していきたいです。

小川:僕は、エンジニアリングが社会の発展に大きな価値をもたらすと信じています。ですから、エンジニアリングを社会に浸透させるためには、技術に長け、ビジネスも理解している“CTO(Chief Technology Officer)人材”を増やすことが必要だと考えています。

ただ、そうした人材を育成することは、容易ではありません。その難問に挑み、“CTO人材”を再現性をもって育てられる会社や制度を生み出すことが、僕の目標です。

田川さんがおっしゃる「変化を起こせない人に未来はつくれない」という意見にはとても共感していて、僕自身が変化を起こしながら、変化を起こせる人材を育てていきたいと思っています。ビジネスサイドを経験し、開発組織を構築したきた過去を活かして、リクルートが「CTO人材輩出企業」といわれるような環境をつくるべく、尽力していきます。

ー最後になりますが、これから社会に出る学生に向け、メッセージをお願いします。

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田川:ピーター・ドラッカーの言葉を紹介させてください。彼は「我々はイノベーションの時代に生きている。このような時代における実際的な教育とは、まだ存在しておらず、はっきりと定義されていない仕事をする人を育てることでなければならない」と言いました。

つまり、「今ある職業は誰かが定義したものであって、変化が激しい時代を生きる私たちが就く職業は、今定義できないものである」ということです。ですから、既知の職業に紐づけて未来を考える必要はない、と思います。

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小川:型にはまらない、はめようとしないことが大切です。エンジニアやデザイナーといった職業も、あくまで一つの型にすぎません。「僕はこういう人間なので」「私はこれが苦手なので」と未来を制限してしまうのは、あまりにもったいない。無数にある可能性に対して、一つひとつチャレンジしていくことを忘れないでください。


PROFILE 田川欣哉
Takram代表取締役。英国ロイヤル・カレッジ・オブ・アート名誉フェロー。東京大学工学部卒業、英国ロイヤル・カレッジ・オブ・アート修士課程修了。プロダクト・サービスからブランドまで、テクノロジーとデザインの幅広い分野に精通するデザインエンジニア。主なプロジェクトに、トヨタ自動車「e‐Palette Concept」のプレゼンテーション設計、日本政府の地域経済分析システム「RESAS」のプロトタイピング、Sansan「Eight」の立ち上げ、メルカリのデザインアドバイザリなど。経済産業省・特許庁の「デザイン経営」宣言の作成にコアメンバーとして関わった経験を持つ。その他グッドデザイン賞金賞、iF Design Award、ニューヨーク近代美術館パーマネントコレクション、未踏ソフトウェア創造事業スーパークリエータ認定など受賞歴多数。
PROFILE 小川健太郎
株式会社リクルートライフスタイル ネットビジネス本部 プロダクトディベロップメントユニット ユニット長
新卒で受託開発企業に入社し、カスタマーサポートからキャリアをスタート。プログラマ・SEを経験後、2012年リクルートに転職。ライフスタイル領域の新規事業開発エンジニアとして従事し、スマートデバイス横断領域や『ホットペッパービューティー』開発マネジャー、ディビジョンチーフエンジニアを歴任。2019年よりグループ3社を兼務し(リクルートライフスタイル・プロダクトディベロップメントユニット ユニット長、リクルート・ディビジョンディレクター、リクルートテクノロジーズ・執行役員)、エンジニア組織開発に従事。

※本記事は、リクルートが20代に向けてキャリアや職業選択のヒントをお届けするインタビューサイト「Search Right - 僕らが会社を使い倒す理由」からの転載記事です。

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