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伝統的な事業を守りながら、社員のための働き方改革を実現――一ノ蔵

伝統的な酒造りを守りながら働き方改革を実現した株式会社一ノ蔵は、宮城県大崎市に本社を置く日本酒の蔵元。1973年に4つの酒造メーカーが経営統合して設立されました。従業員は、関連会社を含め、およそ160人です。

J-WAVE(81.3FM)の人気モーニングワイド「J-WAVE TOKYO MORNING RADIO」内で、さまざまな企業が取り組んでいる「新しい働き方」から、これからの変化や未来を考える「RECRUIT THE WORK SHIFT」。本記事は、過去の放送の中から、「株式会社一ノ蔵」の取り組みをご紹介します。

改革の原点は古くからの杜氏への待遇

一ノ蔵の働き方改革に関するさまざまな取り組みは、日本酒の製造工程を行う職人集団の頭領「杜氏(とうじ)」の待遇改善をきっかけにして始まりました。

代表取締役社長の鈴木整さんによると、以前から一ノ蔵には、「職人さんたちには良い環境で働いてもらいたいという風土のようなものがあった」といいます。しかし、“酒造りのプロ(=現在で言うフリーエージェント)”である良い職人に毎年入社してもらえるような会社になるためには、職人への待遇面の改善、例えば、“まかない”に力を入れるなど「給与面以外の改善も重要だと考えた」といいます。

そうした改善を積み重ねた結果、「労働環境や、従業員待遇を大事にすることにつながっていった」のです。酒蔵の“仕込み”期間にあたる冬の間、一ノ蔵では、「杜氏」を頭領とする職人が出稼ぎに来て、24時間体制で酒造りに取り組みます。環境や待遇を考えてきた同社だからこそ、その職人たちの“技”を大切にするという姿勢が今も生きています。

鈴木

株式会社一ノ蔵 代表取締役社長・鈴木整さん

一ノ蔵は、200〜300年という長い歴史のある蔵元が経営統合して生まれました。現在の同社役員は5人。酒造りは「家業」から「企業」へと変わり、一方で、“従業員を大切に”という考え方は変わらぬまま。それまで培ってきた労使の良好な関係は、「会社のさまざまな規則にそのまま採り入れられた」と鈴木さんは言います。

例えば、2008年のリーマンショック。当時、「企業による一方的な派遣労働者の解雇」が多数行われ、問題化しました。そのような中にあって一ノ蔵は、世の中の流れに逆行するかのように、「製品へのラベル貼りや、製品の箱詰め作業をしていたパート従業員を中心に、全従業員の正社員化を行った」のだそうです。

このような従業員を大切にするという一ノ蔵の姿勢は、後に会社を大切にするという従業員の姿勢にもつながってゆくことになるのです。

業務の効率化と改善、そして、残業減に成功

48年前、株式会社としてスタートした一ノ蔵は、定期的な職場の異動や職務の変更を行う「ジョブローテーション」を導入し、社員のスキルアップを図ることで、さまざまな業務の効率化と業務の改善を進め、全社で残業を減らすことに成功しました。残業を減らす社内運動のキャッチフレーズは「5時になったら帰るのが当然!」。その「5時になったら帰る!」という意識を浸透させていく中で、「ユニークなあいさつが生まれた」と鈴木さんは振り返ります。

「一ノ蔵の社員は、タイムカードを押して帰るときに『お先に失礼します』というあいさつをしていました。それが業務改善を進めていく中で、社員から、『一生懸命、業務を改善して定時に帰れるようにしているのに、“お先に失礼します”はないだろう』という意見が上がりました。その意見を受けて会社は『お先に失礼します』と、あいさつすることを禁止し、定時で帰れる人は『お疲れさまでした!』と胸を張って帰りましょう!ということになったのです」

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他にも、“ノー残業デー”を設定してみると、これが見事にはまり、「今ではノー残業デーでなくても、誰もが5時に帰っている」そうです。

一ノ蔵は、若者の採用や育成に積極的な企業に与えられる認定制度「ユースエール」を2016年3月に取得していますが、そもそも制度の存在を知ったのは改革が進んだ後でした。

製品現場の業務改善をどんどん進め、残業がどんどん減っていた最中、同社の労務関係の社員が「一ノ蔵は、社員の残業時間や有給休暇の取得率など『ユースエール』の認定条件を満たしている」と確認してくれたのです。その報告を受けて会社は、ユースエールを国に申請して認められました。同制度の認定は宮城県で初めて、全国に目を移しても、16番目の認定でした。制度の認定後は、改めて各認定項目を磨くこと、例えば若手社員の待遇改善などに取り組んだそうです。

認定は改革のゴールというより、あくまでも改革の目安。「認定を受けたこれからが大事」だと、鈴木さんは気を引き締めました。

商品仕上げ作業

有給、産休・育休制度を活用しよう!

有給休暇取得は働き方改革の柱です。国も、最低5日間は取得してほしいと企業側にアピールしています。ところが一ノ蔵では、この有給休暇の取得は、会社の大きな課題でした。

「仕事が好きな社員がいて、なかなか休みを取ってくれなかった」というのです。そのような状況を打開したのが「アニバーサリー休暇」。これは、社員からボトムアップで提案された休暇制度で、“何でもいいから記念日を決めて、休みを取ってみようよ”というアプローチの取り組みでした。

この制度は、社内に「働き方の良い循環」を生んでいきます。
「社内の誰かが休みを取る。すると、人が欠けても仕事が回るように周りも協力をする。協力をした社員は、“今度は私が休みたい”と思うから業務改善をする。そういうプラスの循環が現場で起きるようになりました」

有給休暇の取得は、単に社員のワークライフバランスを整えるだけでなく、業務の共有と改善にもつながっていったのです。

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有給休暇の取得は、産休・育休の取得にも広がっていきました。「40〜50代の男性が有給を取るようになったことで、誰もが産休・育休を気兼ねなく取得できるようになった」からだといいます。しかし制度取得が進んだとはいえ、そこには地方特有の難しさもありました。

「一ノ蔵は地方の中小企業。2世帯が同居しているケースが多いです。そのような環境では、生まれた子どもはおじいちゃん・おばあちゃんが面倒を見ることになるため、男性がせっかく育児休暇を取得しても、『邪魔だ!』と言われてしまうこともあるんです」

せっかく取得した制度。この制度をうまく活用してもらうためにはどのようにしたらよいか。一ノ蔵では、いろいろな企業の事例を研究しました。結果として、出産した女性が産休と育休が明けて仕事に復帰するタイミングで、夫である男性が育休を取るというリレー形式にすることで、取得が進んでいきました。現在1人の男性が育休取得中、これまでに合計4人の男性が取得したとのことです。

一ノ蔵玄関と杉玉

改革が目指す最終地点は「健康経営」

さまざまな取り組みで残業を減らし、有給休暇の取得を推進してきた一ノ蔵の働き方改革。改革によって、「残業減少→労働生産性向上→収益力向上→業務改善→有給取得率の向上→労働環境の改善」という良い循環が生まれていると、鈴木さんは考えています。

一般的に、生産性の向上と業務の改善が進むと時間と人員が余ると考えられますが、一ノ蔵では、その人員と時間の余裕こそが、有給休暇の積極的な取得につながっているといいます。「改革の最終的な目的は、健康経営」です。そこには、会社の収益性を高めることだけを目的としない、かつて「杜氏」たちをもてなした「従業員を大切にする」「働く環境を重視する」蔵元としての考え方が生きています。

現在では、優秀な若手社員が入社してくるようになりました。企業合同説明会などで配布するパンフレットに、ユースエールの認定を受けていることや、子育てサポート企業を示す「くるみんマーク」を取得していることなどが掲載されていることが、意欲のある若者の志望につながっているということです。

「自分の働いている会社が働き方改革や健康経営にも積極的だと、みんなが認知しているので、従業員の方から『こんな働き方改革の手法があります』とボトムアップで提案が上がってきます。それらに一つずつ取り組みながら、従業員ファーストの経営を続けていきたい」と、一ノ蔵の働き方改革の今後について、鈴木さんはこのようにまとめました。

無鑑査シリーズ商品写真

株式会社一ノ蔵の取り組みから導き出す「WORK SHIFT」のヒントは・・・『伝統的な事業も、社員のための働き方改革で大きく成長する』でした。

古くからの技を大切にしながら、新しい働き方を取り入れる。それが次の伝統を生み出します。

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■「RECRUIT THE WORK SHIFT」バックナンバー

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